技法technique
工芸分野では多くの専門用語があり、一般的には難解な点が多々あると思いますので、思いつくまま、ここに少しの説明文を載せることとしました。
金工
明治22年開校した日本美術学校(現芸大)で使用される様になった近代的な分類として、現在、 鋳金 ・ 鍛金 ・ 彫金 の3つに大別することができます。
大まかに説明すると、次の様になります。
鋳金 ⋯ 高温で溶けて再び固まるという「溶解性」を利用する技法
鍛金 ⋯ 打ち延ばすと薄く拡がるという「展延性」を利用する技法
彫金 ⋯ 彫ったり削ったりできるという「穿削性」を利用する技法
各々の詳しい説明については、(社)日本工芸会東日本支部ホームページ「金工」をご参照下さい。
次に私が専門としている「彫金」ですが、これは加飾技法であるため、打ち出し・レリーフ・彫り・透かし等、とても多岐にわたるので、代表的な用語を説明します。
象嵌(象眼)
工芸分野においての表現技法のひとつで「素材に別の素材を嵌め込み模様を表す」技法の総称です。従って金工に限らず、木工芸にも色の違う別の木や金属・貝・石などを嵌め込む技法があり、また、陶芸にも彫った部分に色の違う粘土を嵌め込んだり、釉薬を入れたりする技法があります。
彫金技法における象嵌には、
- 彫った線に別の金属を細く線状に嵌める線象嵌
- アリといわれる溝を彫り、別の金属を面として嵌め、表面を平らに研ぎ上げる平象嵌(本象嵌)
- 表面より高く嵌め込み、模様に高低(肉)をつける高肉象嵌
- 金属の表面にヤスリの目立ての様に縦・横・斜めに切り込みを入れ、薄い金属箔を嵌める布目象嵌
等があります。
色金
彫金・鍛金の場合、素材となる金属は主に金・銀・銅・四分一(銅と銀の合金)・赤銅(銅と金の合金)・真鍮(黄銅)等があげられます。
金・銀は別としてそれらの金属は、硫酸銅と綪青と水の混合液で煮込むことで、それぞれの金属が持つ酸化膜の色味を発色させることができます。
これは日本特有の「煮込み着色」と言い、「金属を磨き上げる」西欧の文化にはない、日本独自の「色金」という概念です。そして、それが日本の金工文化の特筆すべき点なのです。
金工作品の赤や黒や灰色等はすべて塗った色ではなく、その素材である金属の本来の色を煮込むことにより発色させているということです。
金銷
金銷とは、別称「
金鍍金
」とも言い、日本では古墳時代後期には既に定着していた古来のメッキ技法です。その方法とは、金色にしたい金属の表面に、金と水銀を混ぜた金アマルガムを塗り、熱を加えて水銀を蒸発させ、金だけを焼き付ける
というものです。
奈良の大仏をはじめ、多くの金銅仏は創建当時この方法で黄金色をしていました。ちなみに、奈良の大仏の場合、約450㎏の金と約2.5tの水銀が使われたと言われ、そのため大量の有毒な水銀蒸気の発生により、多くの犠牲者を出したと言われています。現在では安全な設備のもとでこの技法を行っています。
また「メッキ」と言う言葉の語源は、金と水銀を混ぜる時、金が銀色に同化してしまうことから、金が滅する⇒ 滅金 ⇒メッキと変化したとも言われています。
布目象嵌についての私見
現在、布目象嵌を作品に用いる作家は大勢おりますが、一言で布目象嵌といってもそれぞれ全部個性があり、各々が自分流の布目象嵌をしているのが現状だと思います。
本象嵌と違い、布目象嵌は手間賃より金の価値が高かった時代に、金が少量で済む象嵌技法としてもてはやされたため、目はあくまで細かく切り、切った目が見えないで本象嵌と見まがう位にするのが良いとされていましたが、現在ではデザイン重視で、荒い目には荒目の良さがあると認知される様になりました。それ故、箔を付けるために刻む布目のひと打ちひと打ちが、作品の表面に出てくる布目象嵌は、作り手の感性が如実に現れる技法だと言えます。
ただ細かい目が切れないために荒目になり、デザインで逃げるのでは、単にスキルが未熟なだけで、デザイン的に荒目の方が良として意図的に荒い目を切るのとは根本的に違います。
「布目象嵌には細目・荒目はあっても、雑目はない」というのが、私の布目象嵌に対するこだわりです。
日本における布目象嵌の源流ともいうべき肥後象嵌が、京都・江戸へと伝わり、鹿島の初代が創始した鉄以外の母体(四分一や赤銅)に細かく四度目を切る「鹿島布目」が誕生しました。
私は四代目である祖父一谷より受け継いだこの「鹿島布目」を基本とし、その応用技である荒い布目や研ぎ出し・銷盛といった技法を併用し、制作の幅を広げていきたいと思っています。
表現者であり技術者でもある我々金工作家にとって、多様性に富むこの布目象嵌という技法は、とても魅力のあるものだと思っています。
その他用語解説
- 銷盛
- 金アマルガム(銀アマルガム)を厚く盛り上げて付着させる技法。
- 接合せ
- 異なる金属どうしを蝋付けし、器などを成形する鍛金技法。
- 研ぎ出し
- 布目象嵌した箔を炭や研石で研ぎ、薄くぼかしていく技法。
- 南鐐
- 銀の別称。
- 朧銀
- 四分一 と同義に用いる。銀の含有量の違いや金を含むかにより、白四分一・並四分一・黒四分一等の呼び方がある。
- 黄銅
- 真鍮 の別称。銅と亜鉛の合金。人工的に作り出せる様になったのは、15世紀初め。
- 青銅
- 銅に 錫 ・鉛などを加えた合金。唐金・ブロンズとも言う。
- 黒味銅
- 銅に少量の白目(アンチモニーを主成分としたヒ素を含む金属)を添加した合金。やや黒味を帯びた渋い色の酸化膜を呈する。
- 盒子 (合子)
- 蓋物の総称。
- 香盒 (香合)
- 盒子の中で特に小型の香木を入れる容器。
- 香爐 (香炉)
- 香を焚く容器。
- 水滴
- 硯 に水を入れるための文房具のひとつ。
- 建水
- 茶道具のひとつ。
- 水指
- 同上
- 蓋置
- 同上